いわゆるアニラジについての雑考 その1
購入したのは随分前なのだが、「別冊声優ラジオの時間 ラジオ偏愛読本」というムック本が非常に面白かった。
小野大輔・藤田茜・加隈亜衣・小林千晃・松嵜麗・中村繪里子・洲崎綾らラジオ好きで知られる声優さんたちに、リスナー視点で自らのラジオ愛を語ってもらうという本。声優さんたちの間で「霜降り明星のANN」が流行ってるってのはマジだったんだなーとか、青木佑磨(声優じゃないじゃん!)さんは本当に世界一の鷲崎フリークだなーとか、松嵜麗さんの小松まなみさんへの入れ込み具合とか、「ラジオ」というテーマを通してでないと聞くことの出来ない声優さんたちのトークが読めて、コアなアニラジリスナーならまず間違いなく楽しめる一冊だろう。
私は、この本を鷲崎健さんと洲崎綾さんの告知ツイートで知り、「藤田茜・青木佑磨・洲崎綾」とよく聞くラジオのパーソナリティ達のインタビュー記事が載っていることに興味を惹かれ購入した。彼女らのインタビュー記事は期待通り面白いものだったのだが、通して読んでみて一番興味深かったのは「伊福部崇を囲む会 声優ラジオの過去・現在・未来」というコーナーだった。
今回は、このコーナーで語られた話題を軸において、私の思うアニラジについて語ろうと思う。長くなりそうだったので、タイトルに「その1」と付けたが、別にその2、その3の計画があるわけではないので悪しからず。
アニラジのファンクラブ化
伊福部 正直。地上波のラジオってもともとは垂れ流しにしていて、偶然耳に入ってくるのが基本だったんですけど、それはもうなくなっていて。radikoの普及で、アニラジの方法論である「選んで聞く」という形に地上波もなってきていると思うんですね。
伊福部 アニラジや声優ラジオってファンクラブ的な要素が絶対的に大きくて。(中略)リスナーはそんなことを分けて聴いてないので、その人さえ使っていれば、どんなにクオリティが低い番組でも、好きな人は好きなんですよね。
村上 声優さんのファンからすれば、ファンクラブっぽい方がよくて、ラジオっぽい面白さなんていらないって場合もありますからね。
伊福部 クライアントだってありますよ。「面白くしないでください」って言われることもありますから。ニュアンスが近いことという意味でいったら、半分くらい言われます。「可愛いセリフを言うコーナーに変えてください」って。作品者はそういうことが多いです。
アニラジに出演する側の話はこれまで何度か聞いたことがあったが、作る側の話を聞くのはこの本を読むのがほとんど初めての機会。こう考えているのかーと素直に関心してしまった。
「アニラジのファンクラブ化」。まさに。アニラジ・声優ラジオはその作品・人のコアなファンが行き着く一番深い居場所だと思うし、そういう場所だから、面白さよりファンが喜ぶことを求められてしまうというのは事実だろう。
アニラジのファンクラブ化が一番著しく出ている番組は「エジソン」だと思ってる。文化放送の地上波土曜21時から2時間というこれ以上ないいい枠をもらっているのに、ゲストが告知で持ってきた作品を深く掘り下げるわけでもなく、なんだかよく分からない大喜利コーナーで愛想笑いが起きておしまい。ファンからすれば、若いゲスト・若いパーソナリティが大喜利コーナーで恥ずかしがったり、可愛いトークをして満足なんだろうが、ラジオとしては魅力を感じない。
現パーソナリティの高橋ミナミはこういう構成の番組もそつなくこなせてしまう実力があるので、番組としての形式は保てているが、アニスパを終わらせてまで始めた番組がこれか……と思ってしまうのは私だけじゃあるまい。特に前後で放送しているキミまち、こむちゃがラジオとしての面白さも持った上でアニラジを成立させている分、エジソンのお粗末さは際立って感じる。
ラジオ筋が既に十分鍛えられている男性パーソナリティを捕まえてきて、新番組始めてくれないかなー。
エジソンへの愚痴はここまでにして。
アニラジリスナーはインターネット・SNSに明るい方が多く、サブスクリプションへの抵抗も小さい。加えて、芸人ラジオと比べて視聴者の絶対数が少ないため、スポンサー収益も望めない。
なので、ラジオを「ファンクラブ化」してしまい、会費やイベント・グッズの収益で採算を取っていこうという方針は間違っていないと思う。だが、今その方針を続けていくにあたって大きな問題が立ちふさがっている。
アニラジの配信プラットフォーム老朽化問題
ファンクラブとしてアニラジを続けていくにあたって、今アニラジが抱えている一番の問題はこれだろう。アニラジは、ラジオ業界の中でいち早くインターネット配信を取り入れて、各社が独自のインターネットラジオ配信プラットフォームを立ち上げていた(黎明期のアニラジの知識は人伝いでしか知らないが)。
そういう時代で生まれ、今も続く代表的なプラットフォームが「文化放送 A&G+」や「響ラジオステーション」「アニメイトタイムズ」「音泉」だろう。
また、ニコニコ動画・ニコニコ生放送で配信していることが多いというのも、アニラジの特徴だろう。
これらのプラットフォームは、正直いって時代遅れだ。
音泉は、ユーザーの意見を取り入れて頻繁にサイトをリニューアルしているし、スマホアプリも現代的で高いクオリティであるので、「時代遅れ」と一括りにしてはいけないか。
それ以外は悲惨なものだ。
「響ラジオステーション」は、Webサイトこそ現代的なデザインだが、アプリの出来が良くない。「アニメイトタイムズ」はまだやってたのか?ってくらい影が薄い(自分が聞いてる番組がないだけで、もしかしたら実際のリスナー数は多いのかも。だが配信中の番組数は非常に少ないのでこの認識は間違ってないと思う)。
「ニコニコ動画」で配信するラジオは、もう1万再生も見込めなくなっている。だが、ニコニコには「ニコニコチャンネル」という会員システムがあるため、再生数が多くつかなくても続けるメリットがあるだろう。ただし、Youtubeメンバーシップがここ2年位で広まっているので、この状況もじきに変わるかもしれない。
で、問題の「文化放送A&G+」。ここはもう10年くらい時が止まっているんじゃないかというくらい進化がない。2020年にようやくFlashから脱却できたが、その際リニューアルされたWebサイトは関係者の多くから「見づらい!」と文句を言われる始末。スマホアプリに至っては最新のOSではもう碌に動かない。
アニラジのYoutube、ポッドキャスト移籍
1リスナーに過ぎない私ですら、配信プラットフォームが老朽化でアニラジリスナーが減少している現状に危機感を覚えているのに、ラジオ制作者がそう思っていないわけがない。「セカンドショット」「声優グランプリ」は、Youtubeに活路を見出し、成果が出始めている。
特にセカンドショットが運営するYoutube「セカンドショットチャンネル」はアベレージで3万再生以上がつく「たかにしや」を筆頭に、人気番組を育てられている印象。
Spotifyで配信されていた「呪術廻戦 じゅじゅとーく」は、相当リスナーがいたと聞く。現在は「劇場版呪術廻戦0」に合わせて緒方恵美をパーソナリティに迎えて「じゅじゅとーく0」を配信中。って緒方恵美さんがパーソナリティやってるのか……巨大テック企業の資本は半端じゃないな……
私なんかはスマホを触る時間よりPCを触る時間のほうが長いので、ラジオはほとんどPCで聞くのだが、今どきのアニメ・声優ファンをラジオに誘導するには、「スマホで聞きやすい」ことがマストだろう。
そういう点でいうと、文化放送の体たらくは目に余る。地上波ラジオ局はお金がないというのはわかる。だが、いち文化放送リスナーとして、今後とも末永く文化放送を聞き続けられるように、スマホユーザーがまともにA&G+を聴ける環境を整えてくれることを切に願う。
まとめ
文化放送への愚痴ばかりになってしまった……
こう、アニラジへ悲観的な話ばかりしてしまったが、アニラジという文化がなくなるとは思っていない。
人間に「人と人が会話しているのを聞いていたい」という根源的な欲求がなくならない限りラジオは無くならないはずだし、アニメという文化が淘汰されない限りアニラジもまた無くならないはずと思っているからだ。今後もアニラジは形を変えて、続いていくのだろう。
以上、鷲崎さんの自著から受け売りのセリフを拝借して締め。「その2」を書けそうにない締めにしちゃったなあ。
おまけ
……頼んだぞ文化放送!